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最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)82号 判決

上告人

髙山直

右訴訟代理人弁護士

竹澤哲夫

内藤功

千葉憲雄

岡村親宜

小林勤武

佐藤義弥

林健一郎

豊川義明

斉藤浩

高橋治

増田隆男

木下淳博

山本英司

被上告人

東京国税局長矢澤富太郎

右当事者間の東京高等裁判所昭和五二年(行コ)第五号懲戒戒告処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五七年三月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹澤哲夫、同内藤功、同千葉憲雄、同岡村親宜、同小林勤武、同佐藤義弥、同林健一郎、同豊川義明、同斉藤浩、同高橋治、同増田隆男、同木下淳博、同山本英司の上告理由第一点について

庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、専ら庁舎等における広告物等の掲示等の方法によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するものであって、右許可の結果許可を受けた者は右のような伝達、表明等の行為のために指定された場所を使用することができることとなるが、それは、禁止を解除され、当該行為をする自由を回復した結果にすぎず、右許可を受けた者が右行為のために当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定され又はこれを付与されるものではなく、また、右許可が国有財産法一八条三項にいう行政財産の目的外使用の許可にもあたらないと解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和五二年(オ)第五〇〇号同五七年一〇月七日第一小法廷判決・民集三六巻一〇号二〇九一頁)とするところであり、原審の適法に確定した事実関係の下では、結論においてこれと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決には所論の違法はなく、所論のうち違憲をいう点は、その実質は右許可の性質に関する法令違背の主張にすぎず、原判決に所論の法令違背がないことは、前示のところから明らかである。論旨は、採用することができない。

同第二点について

国家公務員法九八条二項が憲法二八条に違反するものでなく、同法一〇二条一項、人事院規則一四―七が憲法二一条、三一条に違反するものでないことは、いずれも当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和四四年(あ)第一五〇一号同四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁)とするところであり、本件各掲示紙は国家公務員法九八条二項前段所定の違法な行為をそそのかし、又はあおる内容のものであって、これを掲示する行為が同項後段に違反し、また、本件各掲示紙のうち一部のものは政治的目的を有する文書であってこれを掲示する行為が同法一〇二条一項、人事院規則一四―七第五項五号、六項一二号に違反するとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

同第三点、第四点について

所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、本件と事案を異にし本件に適切ではない。また、所論は、違憲をいうが、その実質は本件掲示物の撤去に関する原審の判断の法令違背を主張するにすぎず、原判決に所論のような法令違背のないことは、右に説示したとおりである。論旨は、採用することができない。

同第五点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八五条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮﨑梧一 裁判官 牧圭次)

上告代理人竹澤哲夫、同内藤功、同千葉憲雄、同岡村親宜、同小林勤武、同佐藤義弥、同林健一郎、同豊川義明、同斉藤浩、同高橋治、同増田隆男、同木下淳博、同山本英司の上告理由

本件は徴戒処分の中でも最も軽い戒告処分の取消を求める裁判であって、一見したところは軽微な事件である。しかし、その内容においては底辺のひろい労働組合活動にかかわる広範な問題を争点とし、したがってこれに対する原判決の判断は労働組合運動の根本に関連する。

原判決は、以下に指摘するように、憲法並びに法令の解釈を誤り、また、判例違反の違法をおかすもので、破棄されるべきである。

第一点 憲法二八条、同二一条違反、法令の解釈、適用の誤り

本件労働組合掲示板の設置、使用の法的意義と使用に関する制約について、原判決には憲法二八条並びに同二一条に違反し、かつ、法令の解釈、適用を誤った違法があって破棄を免れない。

一、原判決は、本件掲示板について「行政財産である庁舎の一部をなしている」ものと認定する。ここにいう「行政財産」というのは、国有財産法三条の行政財産を指すものであることは疑いの余地のないものであるところ、原判決の右法律判断は次のとおり法令の解釈、適用を誤るものである。

上告人は、かねて本件掲示板は庁舎から切り離された、物品管理法にいう「物品」と解すべきものと主張してきた。

1 原判決が確定している事実によると、本件掲示板は「……廊下のコンクリート壁に凹みを作ってはめ込み、接着させ」たものである。上告人は右確定された事実を争うものではないが、右「接着」の内容ないし「接着」の仕方は金クギによるものである。したがって、金クギをはずせばその「形状を損うことなくこれを取りはずし移動使用できるもの」である。他の個所にもって行って、同じように「接着」させれば、十分使用できるものなのである。

2 右確定される事実を基礎として本件掲示板が国有財産法に定める「国有財産」か、物品管理法にいう「物品」かは、足立税務署庁舎という不動産の「従物」かどうかにある(国有財産法二条一項三号、物品管理法二条一項三号)。ところで「従物」とは、左記要件のそなわった動産又は不動産をいう(民法八七条一項)。

〈1〉 主物の常用に供せられること(社会観念上、継続して主物の効用を完うさせる働きをすると認められること)。

〈2〉 特定の主物に附属すると認められる程度の場所的関係にあること。

〈3〉 主物・従物ともに同一の所有者に属すること。

主物・従物区別の理由は「物が客観的・経済的関係において、一方(従物)が他方(主物)の効用を助ける立場にあって結合しているときは、その法律的運命においても、これを同一にとり扱い、その結合を破壊しないようにすること」にある(我妻栄『新訂民法総則』二二二頁)。

右に照らして、本件掲示板が「従物」かどうか検討すると組合掲示板は、本来その主物たる庁舎所有者とは別個の法主体である労働組合が使用し、庁舎所有者が使用することを全く目的としない物件であって主物たる庁舎の常用に供せられていない、すなわち、社会観念上主物の効用を完うさせる働きをするとは認められず、庁舎の「従物」とはいえないというべきである。本件掲示板は、庁舎とは別個に他方で作成され、庁舎にクギだけで備えつけられているものであり、庁舎とは別個の所有権の客体となっているものである。

本件掲示板は、「庁舎の一部」としての国有財産ではなく、物品管理法上の「物品」であるといわなければならない。

原判決には法令の解釈とその適用を誤った違法がある。

二、上告人が組合掲示板の利用関係を私法上の無名契約と解すべきものと主張したのに対し、原判決はこれをとるべきものに非ずとし、かつ、被上告人主張の、国有財産法一八条三項に基づく行政処分と解する説にも左袒しないとして、本件組合掲示板の利用関係は「署長が庁舎管理権に基づき、庁舎の一部である本件組合掲示板を分会の組合活動のため、事実上その使用を許したに過ぎないものというべきである」と判示する。

而して本件組合掲示板の利用関係を右のように「事実上その使用を許したに過ぎないもの」とする結果、「従って、分会の右掲示板の利用については、掲示板の維持、保全の目的や公務秩序に違反しないことを当然の制約としており、その使用がこれに反するときは、署長は、庁舎管理権に基づき、その違反状態除去のため、適宜の措置を採りうると解するのが相当である」との結論にいたっているのである。

原判決が本件掲示板の利用関係について「事実上その使用を許したに過ぎないもの」とし、これが庁舎管理権に服し、署長において適宜の措置をとりうるとする点は、憲法二八条に違反し、法令の解釈適用を誤るものである。

1 本件掲示板の占有・使用の法的性格は、掲示板が「物品」であれ、「行政財産」であれ、その設置、占有使用関係の客観的な具体的事実ないし事情によって決定される。

そして、本件掲示板が組合に貸与された具体的経緯として、次の事実があったことは原判決も否定しないところである。

〈1〉 組合が昭和三六年七月、本件掲示板の占有・使用を開始したのは組合との交渉の上、組合との合意の上に当局が組合の団結承認の具体化として、組合事務所、組合事務所の机などの備品(これが「物品」であることに争いはなかろう)などとともに、組合に貸与したものでその貸与にあたり組合が使用許可願を提出するなど特別の法的手続がとられた事実はなく、この占有・使用関係の成立は、民間の労働組合と使用者とのそれと全く同一であること。

〈2〉 被上告人もすでに自白しているとおり、当局は組合に本件掲示板、組合事務所、組合事務所の机などの備品などを「使用させるに際して、同分会に対し許可書を交付し」たこともなく、また「使用料を徴した事実もない」こと。

〈3〉 労働者と使用者の法的関係は、それが民間であれ、公務員であれ、憲法二八条の下においては、特別権力関係ではなく、対等な当事者の法的関係であること。

〈4〉 労働組合と使用者の合意により成立した組合事務所・組合掲示板などの占有・使用関係の法的性格は、組合活動のために占有・使用することを目的とする無名契約の一種と解すべきであり、本件掲示板の貸与にあたり、これを排除すべき特別の合意もなく、又特別の事情も認められないこと。

以上の本件掲示板貸与の客観的な具体的経緯及び事情を考慮すれば、本件掲示板の占有・使用は、当局が単に「事実上使用を許したに過ぎない」ものと解すべきではなく、労働組合との無名契約の一種と解すべきである。

原判決には、組合掲示板の占有・使用関係につき憲法二八条に違反し、法令の解釈適用を誤った違法がある。

2 組合による掲示板の占有・使用を原判決のように単なる事実上のものにすぎないと解すれば、必然的に当局による、組合掲示板に対する支配介入の招来を容認することになる。かかる原判決の判断は、組合掲示板が組合の団結及び活動について必要不可欠のものであり、掲示板使用の自由を認めることが、憲法二八条において労働基本権をすべての勤労者に保障している具体的内容であるという点に鑑みて、違憲の判断を免れないものである。

憲法二八条は、労働基本権についての規定であるが、これは、自由権的側面と共に、社会権的側面をも有すると解されることについては争いのないところであろう。そうとすれば憲法二八条は、単に勤労者に組合結成の自由を認め、その活動の自由を認めたにとどまらず、組合活動を維持、発展させるべく必要な諸方策、諸手段を国家及び使用者に対し要求しうることを保障した規定でもあると解すべきである。そして、かく解することによってはじめて、形式的な自由を貫くことによって生ずる諸矛盾、実質的不平等を解消して、労使の真の対等を期せんとする憲法二八条の社会権的意義を貫くことができるのである。

3 かりに憲法二八条の社会権的側面について、これをプログラム規定と解するとしても、すでに組合掲示板として設置され、長年月にわたって占有・使用を継続している状況の下では、その掲示板の占有・使用はやはり憲法二八条の保護をうけるものといわなければならない。

憲法二八条における団結権保障は、団結権侵害すなわち使用者の組合自治への介入・干渉を禁止し、労働者の団結等を労働基本権として保障するものにほかならず、組合が占有使用する掲示板にいかなる内容のものを掲示するか、しないかは組合自治の問題である。したがって、使用者が組合掲示板の使用について、介入・干渉することは、団結権侵害の違法行為であり、支配介入の不当労働行為を構成することになる。とすれば、組合掲示板の使用は、当局の庁舎管理権には服しないといわなければならないのである。そしてそれは組合掲示板の占有使用関係の法的性格をいかに解するかには全くかかわらないものというべきである。

三、かりに組合掲示板の使用が当局の庁舎管理権に服するとしても、その庁舎管理権は組合掲示板の関係で憲法二八条、二一条による制約をうけるものである。しかるに原判決は右憲法各条の解釈適用を誤った結果、庁舎管理権の法的意義についての判断並びにその組合掲示板との関係についての判断を誤っている。原判決は破棄されるべきである。

1 当局の庁舎管理権がその権利の本来の性質から庁舎管理という、趣旨目的に限定されたものである以上、掲示板に対する庁舎管理権は、あくまでも、掲示板の管理の適正を図る趣旨目的に限定されると解すべきである。したがって、掲示板が掲示板として使用されている以上、それは掲示板として適正な使用状態におかれているのであり、庁舎管理権の本質に鑑みればその行使を招くに由ないものであることは明らかである。本件のように庁舎管理権と相対する権利が憲法上の基本的人権である場合は、管理権と当該人権とを厳密に比較考量し、真にやむをえないと認められる必要最少限の範囲でのみ、庁舎管理権の行使が是認されると解すべきであろう。

本件の場合、管理権に対するのは、組合の掲示板の自由、組合活動の自由であり、それは、憲法二八条の労働基本権、同二一条の表現の自由に該当するところの、侵すべからざる憲法上の基本的人権である。

2 ところで両者を比較考量するとしても、この二つの権利は成立の背景において全く異るのであるから、その成立に遡ってその意義を考察する必要がある。いうまでもなく所有権の絶対はフランス人権宣言に起源があるけれども、自由主義国家で憲法上団結権をはじめてうたったのは、それから一三〇年後のドイツライヒ憲法典である。その成立の歴史において労働基本権がずっと遅れている。また、一方で労働者は雇用される立場にあり、その権利は常に侵されやすい。

所有権が社会的制約を伴うことは当然のこととされ、それだからこそ憲法は二九条二項で所有権もまた絶対でないことを規定するのである。これに対し、労働基本権は右の性質、成立の経緯に鑑み、憲法上特に公共の福祉の文言などの制約を挿入しないで「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利はこれを保障する」としているのである。

かかる観点からみるならば、原判決は「ところで、組合掲示板は、労働組合の指令、意思、情報等の伝達の媒介体として、団結の維持、確保等労働組合活動に重要不可欠の役割を果すものであることは控訴人の主張するとおりである」とした上、「従って、本件組合掲示板の利用関係を前記認定のとおり考えるとしても、署長が庁舎管理権に基づき、分会の意思に反してもその掲示物を撤去しうるのは、その掲示行為が明らかに違法であって、しかもその違法状態を緊急に排除しなければならない特段の事情の存在することを必要とするといわなければならない」と判示し、労働基本権に基いて庁舎管理権を制約しているかにみえる。

しかし、ここにかかげる基準は本来対立しやすい権利を考量するにあたっての基準としてはあまりにあいまいである。このようなあいまいで抽象的な基準では憲法上の労働基本権を保障するには足りず、結局それは必然的に所有権の絶対を高唱することとなること、原判決が右基準をかかげながら、当局の不法な実力撤去すら容認するにいたっている事実に徴しても明らかである。

かくして、原判決には憲法二八条、二一条の各基本権に基づいて庁舎管理権を考察する比較考量の視点を欠落した違法があり、その結果、本項冒頭でのべたとおりの憲法判断並びに法令の解釈、適用に関する誤りを、原判決がおかすにいたったものである。原判決は破棄されなければならない。

第二点 掲示紙並に掲示行為の正当性

国家公務員法九八条二項の違憲(憲法二八条違反)、同法一〇二条一項、人事院規則一四―七の五項六項の違憲(憲法二一条、同二八条、国際人権規約違反)並びに適用違憲。

原判決は(1)、本件『「ストライキ宣言」については、総評及び公務員共闘が連名で「われわれは一六〇万公務員労働者の統一と団結をかため……『一〇・二一』統一ストライキを全力をあげてたたかい抜くことを宣言する」としている点において、「秋闘四大要求獲得」については、総評名で「統一ストライキで闘おう」としている点において、また「最低賃金制」については、総評名で「ストライキで闘いとろう」としている点において、いずれも国家公務員が禁止されているストライキをそそのかし、若しくはあおっている内容のものであり』とし、(2)、『他方、「ストライキ宣言」については、「総評に結集するベトナム反戦……の全労働者とともに敢然としてたたかい、要求実現をめざし……統一ストライキを全力をあげてたたかい抜く」としている点において、「秋闘四大要求獲得」については、四大要求の一として「アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう!」を掲げている点において、いずれも政治的目的を有する文書である。』と判示した上、(3)、『したがって、これらの文書を本件組合掲示板に掲示することは、国家公務員に対しストライキをそそのかし、若しくはあおることになって国公法九八条二項後段の規定に違反し、また政治的目的を有する文書を庁舎に掲示することになって同法一〇二条一項、人事院規則一四―七の五項五号、六項一二号の各規定に違反するものである。』として、その適条を示している。

しかしながら、〈1〉国公法九八条二項は憲法二八条とあいいれない違憲の法令である、〈2〉国公法一〇二条一項、人事院規則一四―七の五項五号、六項一二号の各規定は憲法二一条等、国際人権規約に違背する違憲の法令である、〈3〉本件「ストライキ宣言」「秋斗四大要求獲得」につき国公法九八条二項あるいは同一〇二条一項等を適用したのは憲法二一条、二八条等に違反する(適用違憲)、〈4〉かりに違憲ないし適用違憲でないとしても原判決の右判断には国公法九八条二項、同一〇二条一項等に関してその解釈、適用に誤りがある。

原判決は破棄されるべきである。

以下、順次のべる。

一、国公法九八条二項の違憲無効並に適用違憲

1 国公法九八条二項は、憲法二八条に違反し、無効である。憲法二八条は、公務員たると一般私企業たるとを問わず、すべての勤労者に対し、団体行動権(争議権)を保障している。しかるに、国公法九八条二項は、国家公務員の争議行為等を全面かつ一律に禁止し、争議権を全面的に否認している。したがって、同法条が憲法二八条に違反していることは明白である。

2 かりに、国公法九八条二項が違憲無効でないとしても、憲法の基本的人権としての労働基本権並びに言論表現の自由尊重の精神にかんがみ、同条二項で禁止される争議行為の範囲およびそそのかし、あおりについては限定して解釈適用されるべきである。

ところで、原判決は「ストライキ宣言」および「秋斗四大要求獲得」のストライキ云々の文言の言葉じりをとらえて、これがいずれも争議行為のそそのかしもしくはあおりの内容のものであるとし、これが本件掲示板に掲示する行為がまた国公法九八条二項後段に違反するものとするのであるが、右掲示紙の内容および掲示行為にてらし、これに国公法九八条二項、同後段を適用することは明らかに憲法二八条、同二一条に違反するものといわなければならない。

この点について若干ふえんすれば次のとおりである。

(1) 労働組合という団結体はいうまでもなく憲法上、団結権の保障をうける個々の労働者があいよって団結し、その団結体の維持・継続・発展をはかるために、団結体は意思決定機関やその執行機関をもつ一方、個々の労働者が集って結束し、団結をかため、これを継続する条件となるべき情報について、個々の労働者は知る権利を有する。団結権保障が憲法的要請であるとすれば、その団結権の不可欠的な基礎は充分な情報の提供であり、個々の労働者からいえば知る権利である。すなわち、知る権利は団結権保障の核心的内容であるといわなければならない。

個々の労働者は知る権利を有し、組合の各級機関は知らせる義務を有するといってよい。かかる趣旨から、どのような組織でも情宣部ないしは教宣部等の専門部をもち末端にいたるまで、掲示板を備えることが当然とされ、これをもちいて情報を提供し、また、機関紙等を発行しているのである。

(2) かかる観点からいうならば、団結権保障の実質的核心は言論表現の自由の保障であり、その充実なくして団結権保障の全きを期し難いのである。

したがって組合掲示板に何を掲示するかは、もともと組合の自由にまかされるべきものであって当局の干渉は、労働組合の言論表現の自由を侵す行為として許されないと解すべきである。また組合員の側から見れば、個々の組合員は組合の方針、加盟組織の状況等の労働情勢等について知る権利を有するのであり、当局の掲示物への干渉は、組合員の知る権利を侵す行為でもある。

憲法二八条は労働者の地位の向上をはかり、使用者に対して対等の地位を確保すべく、労働者の団結権を認めた。しかし、真に労働者が使用者と対等の位置に立つ為には労働者が単に団結するだけでは不充分である。労働者相互間の連帯の意思に支えられ、しかも、自らの属する組合のもとに個々の労働者が一致団結して行動しうるのでなければ到底、使用者との対等の確保と勤労者の地位向上はのぞみ得ない。

そして、そのために労働者相互間に、連帯の意思を醸成し、しかも労働者の団結した行動を保障すべく掲示板による自由な言論表現活動の確保は必要不可欠であり、その具体的保障こそが憲法二八条、同二一条の本旨であるといわなければならない。

(3) 公務員が「勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異るところはないから憲法二八条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべき」ことは、かの四・二五判決でさえ認めるところであって、この点についての異論は判例上もも早ありえないとすれば公務員についてことに労働基本権のうちの団結権についてはその保障につき全く争いの余地がないものといわなければならない。

そして、本件の全国税労働組合は総評(日本労働組合総評議会)に加盟所属しており、その総評は民間、官公労を含めて組織されるわが国最大のナショナルセンターであることは衆知のところである。而して、全国税労組がいかなるナショナルセンターに加盟し、そのナショナルセンターに民間労組も組織されて、共同斗争をくむ組織を形成することは、これまた団結の自由の帰結であって、非難を容れる余地は全くないこというまでもない。

その公務員の団結体たる全国税労組の末端組織たる足立支部が、自らの組織の加盟する総評・国公共斗等の教宣情報文書が組織を通じておろされてきた場合に、これを自らの掲示板に貼付して何故違法視されなければならないのか。あれこれの理くつをつけたとしても憲法の保障する言論・表現の自由、団結権の保障に関する叙上の観点から、これを違法視することはできない。

本件掲示物の内容について、原判決は国公法九八条二項が禁止する争議行為のあおり、そそのかしの文書であるという。しかし、総評というナショナルセンターは民間も官公労も含む協議体である。その発するストライキ宣言や秋斗要求は、指令指示権のない協議体の発する、文字どおり労働運動上の文書である。かかる文書にはその性質上当然に運動上のプロパガンダやアジテーションが入るのであり、官庁の上命下服の通達とは異るのである。かかる次元の異る文書に対して法律上の次元の問題として厳密な法律解釈を加える如きは、およそ常識をすら疑いたくなる。法律論以前に常識をとり戻してほしい。

かかる理くつは当局が労働組合に対する偏見に基づき、これを陥れるための不当労働行為意思の表白であるというべく、これに加担する原判決の不当違法は到底容認できない。

さらにいうならば、本件全国税足立分会は具体的には本件一〇・二一に時間内職大等、国公法違反と疑われる行為に出る方針は全くなく、このことは機関紙等で明らかにしており、当局側も充分認識していたことである。つまり、本件スト宣言等貼付の趣旨が、上部からおりてきた文書をそのまま組合掲示板に貼付し、自らの加盟する組織を中心とした労働情勢に関する情報を提供すること以上に出るものでないこと、ましてこれが争議行為のあおり等にいささかの影響もあたえる性質のものでないことは、本件労使双方とも諒知していたのである。

そうとすれば、かかる掲示板の内容、性質、および掲示行為は憲法二八条、二一条によってこれを最大限に保障されるべき範囲に属すること疑いない。

(4) したがって、これに対し本項冒頭掲記の適条により、これを違法とした原判決は憲法二八条、同二一条に違反するものといわなければならない。

二、国公法一〇二条一項、人事院規則一四―七の違憲無効

1 国公法一〇二条一項、人事院規則一四―七にいうところの政治的行為には政治的意思の表明をふくむこと当然であるところ、政治的意見の表明が憲法二一条の保障をうけるものであることもまた疑問の余地がない。而して、政治的意見の表明は民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであることは判例上も争いのないところである。さらにこの点については国際人権規約B規約一八条一、二項は「すべての者は、思想、良心……の自由についての権利を有する」とし、「この権利には単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的……に信念を表明する自由を含む」と明記し、また「何人も、自ら……有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない」と規定している。また、B規約第一九条二項によれば「すべての者は表現の自由についての権利を有する」が、「この権利には、口頭……又は自ら選択する他の方法により……あらゆる種類の情報及び考えを……伝える自由を含む」と規定する。さらにまた、B規約第二五条によると「すべての市民は、第二条に規定するいかなる差別もなく、かつ不合理な制限なしに」「直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与する」「権利及び機会を有する」と定めている。

されば国公法一〇二条一項、人事院規則一四―七が国家公務員の身分を有するすべてのものに対し、全面かつ一律に政治的意見の表明をふくむ政治的行為を禁止していることは、右の憲法二一条ならびに国際人権規約に違反するもので、違憲無効である。さらに国公法一〇二条一項の人事院規則への委任は憲法三一条等に違反する。

2 かりに国公法一〇二条一項、人規一四―七が違憲無効でないとしても、憲法の基本的人権保障のうちの最も根幹をなす言論表現の自由のうち、わけても政治的意見表明の自由に直接かかわるものであり、かつ、すでにふれた憲法二八条の精神にかんがみると、本件掲示紙の内容について国公法一〇二条一項等にいう政治的目的を有する文書とし、これを掲示板に掲示する行為を以て同条同項等にあたるとする原判決は、その解釈、適用において、憲法二一条、同二八条に違反する。

まず、第一に「総評に結集するベトナム反戦……の全労働者とともに敢然としてたたかい」あるいは「アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう」の文言は国公法一〇二条一項、人規一四―七にいう政治的目的を有する文書ではない。これをあたるとする原判決は憲法二一条、二八条に違反する。

第二に、同文書の組合掲示板掲示行為を以て、同法一〇二条一項、人事院規則一四―七の五項五号、六項二号にあたるとする原判決はその解釈適用において憲法二一条、二八条に違反する。

第三に、本件文書の内容は人規一四―七の五項五号に該当せず、また、組合掲示板への掲示行為は六項一二号に該当しないことは明らかである。

本論旨については追ってさらに補充する。

第三点 掲示物実力撤去の違憲違法性

憲法三一条、三二条、二一条違反。

本件一、二審を通じて明らかな事実によると、〈1〉本件掲示板は全国税足立分会使用にかかる組合掲示板であること、〈2〉本件掲示紙は同分会の所有に属する物であること、〈3〉本件掲示紙は同分会が貼付したもので、当局が貼付したものでは全くないこと、〈4〉当局が本件掲示板の使用者であり掲示紙の所有者である分会の意に反して、掲示紙の内容が違法であるとの当局の一方的判断に基づいて、実力で掲示紙を撤去したこと、が明らかであり、この事実関係は原判決も確定するところである。

原判決は右事実関係を前提として、当局が分会の意思に反して掲示物を撤去したことを正当であると結論する。

しかしながら、原判決のこの判断は以下のべる理由により憲法三一条、三二条、二一条に違反する。

一、憲法三一条、三二条違反

憲法三一条は「何人も法律の手続によらなければ自由を奪われない」旨、明定する。

近代国家においては、どこの国であれ法律の手続によらないで実力行使という自力救済の挙に出ることは原則として法的に許されないのである。利害相異なる当事者間において、自力救済を原則的に認めれば、社会秩序は成立たないからである。自力救済の原則的否定と権利救済を国家機関たる裁判所にゆだねることによってはじめて近代国家は成立っているのである。このことを憲法的に保障したのが同三一条であるといわなければならない。この近代国家の論理は、当然原則的には労使関係にも妥当すること当然である。

原判決の右判示は、この近代国家の大原則の否認の法理であり、憲法三一条に明らかに背反するものとして、とうてい許されないといわなければならない。

また、憲法三二条は右三一条につづいて「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」と規定する。

同条は裁判所以外の国家機関において最終的な有権的な法的判断をすることのないことを明定し、国民にこれを保障したものであることは明らかである。

そうとすると、裁判所に非ざる本件当局がその一方的な法的評価と判断のもとに、裁判手続でいうならば「執行」に相当する実力撤去まで敢行するとなれば、それは憲法三二条に反し上告人の裁判所において本件掲示物の法的評価、掲示の妨害禁止ないし排除をもとめる権利を奪うものであり、その点でこれを正当とする原判決の判断は憲法三二条に違反するものといわなければならない。

二、憲法二一条一、二項違反

本件において当局が組合掲示板の掲示物を実力撤去したという事実は、その撤去に先立ち当局が掲示物の内容に立入り、違法の判断をなした事実があることを意味する。

右のように当局が組合掲示板の掲示物の内容に立入り、違法、適法の判断をすること自体、当局が労使一方の対等当事者の文書を監視、検閲するに帰し、これを是認することは憲法二一条一項による本件分会並にその構成員たる上告人ら組合員の享有する言論表現の自由を侵犯し、さらにまた当局の同条二項の禁ずる「検閲」を容認するに帰し、その結果、本件分会の組合掲示板使用の自由、団結の自由をも侵犯する意味では憲法二八条にも違反する。されば、当局のこれを正当とする原判決は憲法二一条一、二項および二八条に違反するものといわなければならない。

原判決は前掲記の要件をかかげるものの、それは以下にのべるごとく、本件における当局の実力撤去を正当化するものでなく、そこにかかげる要件の故に、当局の本件処分、措置の違憲の判断を免れうるものではない。

かかる行為の容認は、ひいては掲示板と同様の性質を有する組合事務所等への当局側の介入まで許すことになり、その歯止めの保障をどこにも見出しえないからである。その意味で、団結の自由の保障を無に帰せしめることに直結することにならざるをえない。

原判決の採る法理は、以上のとおり憲法の保障する言論表現の自由、団結権の保障の観点からも誤りである。

三、原判示の実力撤去の要件のあいまい性と違法性

原判決が判示する「署長が庁舎管理権に基づき分会の意思に反してもその掲示物を撤去しうる」要件は、〈1〉掲示行為が明らかに違法であること、〈2〉違法状態を緊急に排除しなければならない特段の事情が存在すること、である。

しかし、かりに前記一、二が理由がなく、当局による実力撤去がある要件のもとで許容されることがあるとしても、原判示の右要件はあいまいに過ぎる。

まず、すでにしばしばふれてきたように、(1)掲示行為の違法の明白性には掲示物の内容に関する違法性の問題をふくみ、また、掲示行為は組合活動そのもの、憲法二八条の団結権に密接する問題をふくむ。(2)違法状態を緊急に排除しなければならない特段の事情には、本件の場合にみられるように、一〇・二一を争議行為実施をもってたたかう具体的可能性の有無とともに争議行為の権利性についての憲法二八条、二一条の問題をふくむのである。

実力撤去においてかかる憲法問題をふくむ重要な権利関係の判断を伴わざるをえないとすれば、かりに一般的抽象的に本件実力撤去の場合に、自力救済の法理を準用するとしても、原判決の基準はあいまいに過ぎ、その結果は組合(分会)あるいは上告人をふくむ組合員の憲法上の前記諸権利の侵犯を容認することになる。そうとすれば原判決の実力撤去の要件の判旨は、それがあいまい、抽象的であることによって、憲法二八条、二一条違反を容認するに帰し、破棄されざるをえないものである。

第四点 原審判決の判例違反

原判決は、組合掲示板に貼付された組合の掲示物を署長が自力で撤去することを、一定の条件をつけたものの、違法ではないとしてこれを認めた。庁舎管理権との関係を含めた撤去の違法性については既に第三点において指摘したとおりであるが、同時に、原判決は、自力救済についての従前の判例に違背している。

一、近代法においては、原則として自力救済は認められてはいない。そして、例外的に認められる場合にも、極めて厳しい条件のもとで、はじめて違法性を阻却するものとしている。

二、つまり、判例は、例えば、僣称所有者からの小作者が栽培した稲苗を真正所有者が自力で除去した場合(大判昭一二・三・一〇民集一六・三一三)などに、例外的に自力救済を認めて違法性を否定するが、しかし、土地の所有者が不法占拠者によって建築された土蔵を自力で取りこわした場合(大刑判明三六・五・一五刑録九・七五九)や、通行権者が通行権を妨害する板塀を自力で除去した場合(大刑判大七・一一・五刑録二四・一三三五)、用水権者が用水権限のない者によって不法に設置された用水せきを自力で取りこわした場合(大判大七・一一・一六民録二四・二二一〇)などのように、裁判手続によれば必らず救済が認められるような場合であっても、権利者の自力による救済を認めず、これを違法と判断している。

三、自力救済については、わが民法には明文規定がなく、結局、民法第七二〇条の正当防衛、緊急避難の規定などが類推されることとなるが、本件においては、右規定の要件に該当しないことはもとより、自力救済についての右指摘の各判例に違背した判決をしており、この点においても原判決は破棄を免れない。

第五点 判決に影響を及ぼす事実誤認

原判決は、以下に指摘するとおり、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認がある。

一、原判決は、本件懲戒々告処分の前提事実について一審判決を引用し「上告人が暴言、暴行の行動をし、職場復帰命令に従わなかった」としている。しかし、

(一) 第一回掲示紙撤去行為については、当局側の現場立会証人である石山功の証言からみても、暴行、暴言の事実は認められず、また、職場復帰命令についても判然としない。しかも、他の証拠によれば、原判決認定の「暴行」は認められず、むしろ、上告人の方が暴行をうけていることが明白に認められ、また「暴言」なるものも、証拠を精査するならば、当局側の掲示紙撤去行為に対して、上告人ら組合員が抗議として発した言葉に過ぎず、それも「なぜ取るのか、組合財産を黙って取るのは泥棒と同じだ」という言葉であって、懲戒々告処分となるべき暴言とは全く異なることが明らかである。

さらに、「職場復帰命令」なるものも、証拠上は「そんなことはどうでもいい、ともかくてめえらは席へけえれ」「うるさい」「帰れ」「このやろう」「俺の言うことを聞けねえのか」などという乱暴な言葉で、それも上告人ら組合員の抗議に対し、問答無用の喧嘩腰による返答であって、到底「職場復帰命令」などというべきものではなかった。

(二) 第二回目の掲示紙撤去行為の事実についても、臼井課長を「背中で押す」などという証拠は、当局側の石山証人の証言からも認められない。「暴言」「暴行」についても同じく当局側の石山証人によってもその事実は認められないのである。しかも、証拠によれば、当局側の職制である桜井課長補佐が、わざわざ、掲示紙撤去後も現場で上告人ら組合員を待ちかまえていた事実が認められる。「職場復帰命令」なるものも、証拠上認め難いこと既指摘のとおりである。

(三) 第三回目の掲示紙撤去行為の事実についても前同様であり、上告人の「暴行」「暴言」は証拠上認めることはできず、むしろ、当局側の職制桜井により上告人は「手を逆にねじ上げられ」る(一審大久保証人)などした事実が認められる。「職場復帰命令」についても証拠上認められないこと前同様である。

原判決は、以上のとおり懲戒々告処分の前提たる事実につき明らかな事実の誤認があり、その誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄されなければならない。

二、原判決は、本件処分が処分権の濫用であり、不当労働行為に当ることについても、これを否定する。しかし、

(一) 証拠上明らかなとおり、本件は、当時活動が活発化していた全国税労働組合足立分会に対して、当初より計画的に上告人ら組合活動家の弾圧、処分を目的とした典型的な不当労働行為であった。

本件審理にあらわれた全証拠を綜合するならば、右当局側の不当な意図が明らかな次の各事実が認められる。

1 全国税労働組合足立分会は当局側の度重なる差別、弾圧にもとづく組合つぶし政策により昭和三四年以降大巾な組合員減少が続いたが(山田証人、上告人本人尋問他)、本件事件の数年前より全国的に組合建直しの活動が活発化し、ことに足立分会においては組合員がきわめて原則的に活動を続け、活発化していた(被上告人側の認めるところでもある)。

2 掲示板の使用については、組合側は当局側から貸与の際にも何らの条件を付されたことなく、また、昭和四〇年秋以前には掲示板内の掲示物につきたゞの一度も文句をつけられたこともなかった。

3 昭和四一年は当局側による全国税労働組合に対する攻撃が全国的にかけられ、組合活動家に対する処分が集中した。

4 問題となる全国税労働組合における統一行動の具体的内容は甲第一号証、同二号証、同三号証などに明記されかつ足立税務署長にも右各文書は直接渡されるなどして当局側は事前にその内容を十二分に熟知していた。

5 本件掲示物は当局側による実力撤去の二日前から掲示されていたものであり、当局側もそのことを当然に知っていた。

6 当局側による実力撤去の当日の朝、桜井総務課長補佐らがフラッシュで本件掲示物の写真を撮影していた。

(このことは前5と同様当局側の「昼頃発見した」との嘘をも示す。)

7 本件掲示物の撤去につき、当局側は、職制のうち最も挑発的言動をとる臼井総務課長および桜井総務課長補佐の両名をわざわざ前面に立ててきた。

8 右のほか、第一回目からかなりの職制動員をして本件掲示物の実力撤去にのぞんでいた。そして、二回目以降は写真、テープコーダーの用意までしていた。

9 本件掲示物撤去については、当局側は組合員の抗議を無視し、理由を求められても何ら理由を明らかにしなかった。

10 実力撤去一回目の直後、組合側からの正式話し合い申入れに対してもこれを無視して話し合いに応ぜず、実力行使を繰り返した。

11 二回目の実力行使の際は、わざわざ終業十分前の午後四時五十分という時間を選び、かつ、右臼井が掲示紙を撤去したにもかかわらず、これを大男の右桜井にわざわざ手渡し、右桜井一人を掲示板の前に待機させ、わざわざ上告人ら組合員を待ちうけさせていた。

(二) 以上の如く、当局側の本件処分が不当な意図にもとづく処分権の濫用であり、不当労働行為であることは明らかである。

しかるに、原判決は、処分権濫用にかかる以上の事実につき明らかに誤った認定をなし、その誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかなので、原判決は破棄されなければならない。

以上

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